夏の匂い

雨が降った。

家で出来る仕事を朝から片付けて、まとめてメールを送る。
仕事の区切りで軽く何か口にする。

読みかけの本に目が行くが手は出さず、ここ数日に起きたことを整理する。考えるとわからなくなることが多いのでシャワーを浴びることにする。
体を水に濡らすのは好きだ。
自分のなかの受け入れがたいことや黒いところを溶け流してくれる気がするからだ。

タオルで体を拭き、暖まった体から汗が引くのを待つ。
気温が思っていたよりも高いようで、なかなか汗がひかない。

失われた水分を取り戻すためにいれておいた紅茶を飲む。
今日の服装をかんがえながら洋服ケースを漁る。

明日の仕事で使うものを整理しておかないといけないことに気が付く。黄色い玉子ザルの中身を並べ直す。
とりあえず家で出来ることがなくなったので、車を取りに向かう。
家を出ると蒸発する水分が熱気となって下から上に流れていっている。
梅雨になる前に夏の匂いがする。
強い太陽の光にサングラスをしてこなかったことを少し後悔する。が、3階まで階段を上ること考えてやめる。

歩いていると強い日差しでくっきりと影がでていることに気付く。頭のうえの白と水色のマーブルと足元の黒と灰色と白のモザイクが像を結ぶ。この世界に存在することの哀切と実感が襲ってくる。
自分は自分でしか居られないし、他のものにはなれない。まだ何者ではない自分がなにがしかになるために日々を紡ぐしかないということを続けるしかない。